山梨県北杜市明野にある日本二百名山の茅ヶ岳は、日本百名山を発表した作家の深田久弥氏が亡くなった山として知られています。中央自動車道を走る車窓から見える金ヶ岳と連なる山容は、その先に大展望を見せる八ヶ岳と似て見えることから「ニセ八ツ」の異名を抱いてもいます。
深田久弥からのエールを背中に受けての山行
標高1704mの茅ヶ岳へは首都圏のハイカーなら、マイカーで中央自動車道韮崎I.C.から県道27号昇仙峡グリーンラインに乗って、茅ヶ岳深田記念公園に乗り入れる方が多いかと思います。同公園駐車場は約30台収容可能な露地の駐車スペースがあります。こちらにはトイレも設置されており、茅ヶ岳登山ベースとして機能的な駐車場でもあります。

公園駐車場奥に登山口が口を開けておりますが、深田久弥氏直筆の記念碑があります。記念碑には「百の頂に百の喜びあり」と刻まれています。

同氏の山を愛する者たちへの励みの言葉に、背中を押してもらっての入山です。山は動かない、とはよく言いますが、雲ひとつを取っても一瞬たりとも同じ姿でないのも事実です。一期一会の山頂のひと時を大切にしたいですね。

樹林帯の登山道を進み、苔むした岩場が出現してくると女岩の案内が出てきます。

女岩は落石の危険があるとのことで立ち入り禁止となっています。女岩を超えると、登山道は険しさを見せます。大岩の急坂やつづら折りがしばらく続きます。

岩や木の根との格闘の急坂を過ぎて稜線に出てほどなくして、深田久弥終焉の地の碑が現れます。氏は脳溢血で倒れたそうですが、これからの季節は、汗との格闘が加わります。碑の周りにベンチがあるわけではないですが、山頂へ向けての休憩ポイントのアイコンになるかとも思います。
好物はあんぱんだった深田久弥を偲んであんぱんで山飯
急登をやり過ごして山頂へ。決して広いとは言えない山頂ですが、二等三角点が置かれた見晴らしに優れた場所で、富士山はもちろん、南アルプス北部の山並みは鳳凰三山や甲斐駒ヶ岳などの鋭鋒を眼前にします。

天気に恵まれなくとも方位盤も設置されているので、出会いがかなわなかった秀麗な山々への展望を想像する楽しさもあり、来たる機会を作る意欲にもなるでしょうね。

深田久弥氏は山行のお供に必ずあんぱんを持参していたと聞きます。深田久弥ファンのハイカーの中には、茅ヶ岳登山にはあんぱんを携行する人もいるそうです。あいにく、こしあん好きだったのか、ねりあん好きだったのかまでは不明ですが。胡麻がけ仕様もありますし、最近ではホイップクリームも加わったあんぱんもあったりで、山行デザートのバリエーションとして魅力を感じますし、登山に甘味はいい意味でオススメです。朝ドラもあんぱんが好評ですし。

低山といっても侮れないタフなルートの金ヶ岳縦走下山
山頂から連なる標高1764mの金ヶ岳ヘ縦走してもよし、ピストンで下山もよしです。石門を通過して金ヶ岳からの縦走下山は、金ヶ岳山頂直下に痩せた岩場もあるので、十分に注意を払ってください。アスファルトの林道に降り立ってから駐車場までは、かなり長い距離を歩きます。


茅ヶ岳と金ヶ岳が連なる山容は甲府盆地側から見ると八ヶ岳のそれと似ていることからニセ八ツと呼ばれていますが、じつはこの評判は歴史も深く、江戸時代後期に編纂された甲斐国志やその他の地誌にも、八ヶ岳と混同するような表記が散見されるそうです。異名にも歴史あり。茅ヶ岳は異彩を放つ低山ですね。
