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一見きれいに見える沢の水を飲んでも大丈夫? 山で安全に得られる水の補給と気をつけたい危険性とは

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いろんなスタイルで各地の山を旅している筆者は、じつは沢登りも大好きなのですが、まだ初心者の頃のこと。とある沢での山行で、休憩時に自宅から持参したお茶を飲んでいたら、先輩に「沢で茶ぁ飲んどるヤツがおる!」と思いっきり笑われたことがあります。その先輩は、「沢ではな、こないして飲むんや!」と、水面に顔を寄せて、豪快に沢水を飲みました。

新人的にはかなりインパクトのある体験となったのですが、それ以来沢登りのときに飲み物を持って行くのをやめたかといえば、そんなことはありません。あたりまえですが、どの沢の水でもそのまま飲めるわけではないのです。

問題なく飲める安全な沢水ももちろんありますが、たとえば上流に人工的な施設などがある場所だと、排水が混ざっていることもあるし、農地があれば、農薬などが含まれている可能性もあります。

上流に車道が通っていたりする場合、不法投棄されたごみの中を流れてきている水かもしれません。人工物がまったくなくて環境がよさそうでも、少し先で獣の死体が腐乱している可能性だってなくはないですよね。

ヤゴやオオサンショウウオなど、清流を好む生き物がいれば、きれいな水と判断することもできるそうですが、虫やカエルが泳いでいる水を飲む気になるかどうかは人による?

湧き水はべつとして、沢の水は基本的にはそのまま飲まない方がいいと思います。長い縦走などで、補給に沢水しか得られないときは、煮沸してから飲むのが原則です。登山活動で手軽に使える、携帯浄水器も発売されています。アウトドアショップなどで探してみるのもいいでしょう。

恐怖の「10年殺し」

昔から、沢登りを愛好する沢ヤ的に一番恐ろしいと思っていたのが、北海道のエキノコックス(多包条虫)です。野ネズミが中間宿主となり、それを捕食したキタキツネやイヌが終宿主となる病原体です。

キタキツネの生息域である北海道では、沢の水が汚染されている可能性があることはずいぶん古くから知られています。沢の水をそのまま飲もうとする人はいないとは思うのですが、沢登りの場合、何かのはずみで流されることがあり、おぼれそうになると水を飲んでしまうことがあるのです。

でも、うっかり飲んでしまったとしても、すぐには何も起きません。飲み込まれた虫卵は、非常に長い年月をかけて体内でゆっくりと成長します。はじめのうちはまったく無症状で、初期症状が現れるまでに通常10年以上かかるとされています。

腹痛や黄疸、貧血、発熱などの症状が出始め、肝臓が腫大したり、腹水が貯留したりすることも。単なる体調不良と思って、そのような状態を放置すると、発症からわずか半年で死亡することもあるという恐ろしい病気です。

ちなみに、長年北海道だけのローカル事象と思っていたのですが、2014年頃には、愛知県の知多半島で陽性のイヌが確認されており、その後定着しているもよう。もしかすると、もっとエリアが広がっている可能性があります。おそろしや……。