登山の世界には街中で過ごしているときとは違う、独自のルールやマナーがいろいろあります。ビギナーさんの中には、「なんでそうなの?」という疑問を持つ人も少なくないでしょう。そんな〝山のルールやマナー〟に関して、素朴な疑問なども含めて解説します。1回目は、「登り優先」について。
なぜ山では〝登り優先〟なのか?
登山道では、これから登る人もいれば、下ってくる人もいるので、登山者同士がすれ違うことはよくあります。とくに、人気コースでは、時間帯によっては頻繁にすれ違いが起きます。

余裕ですれ違える程度に道幅が広い所ならいいのですが、そうではない道幅の狭い山道も多いです。そんなときに知っておくべき、基本的なルールが「登り優先」ということ。なぜかというと、登りのときは体力的にきついので、なるべく一定のペースをキープする方が楽だからというのがひとつ。
もうひとつは、登りの時にはどうしても自分の足元だけを見がちなのですが、下りのときは少し先の方も視界に入りやすいという物理的な問題があります。先にすれ違いに気づいた人の方が、安全にすれ違える場所を確認して、そこで待つなどの判断をしやすいのです。
また、息が上がっているときには余裕がなくて、一歩一歩足を運ぶことに集中しがち。下りのときは呼吸も楽なので、周囲を見る余裕があるのです。

きつい状態の登りの人に対して余裕がある下りの人が配慮する、という思いやりの要素もあります。実際に山道を歩いていると、ベテラン登山者ほどいち早くすれ違うことに気づくようです。安全にすれ違える場所で、景色を眺めるポーズを取りながら、相手に気を遣わせずにさりげなくやりすごすなど、余裕を感じさせる行為を見ると、カッコいい山男・山女だなと憧れます。
どんな場合でも登りが優先なの?
「基本的なルール」ですので、もちろん例外はあります。「余裕がある」状態なのが、下りの人とは限らないこと、そしてその場所的な条件から、登りの人が譲った方が安全だったり、合理的だったりするケースも少なくないこと。また、きつい登りが続くときにすれ違う人にずっと譲られ続けるのはけっこうキツいものがあります。
筆者は、登ってくる人に道を譲るときには、「ゆっくりどうぞ」とお声がけをするようにしていますが、そう言われても待たせていると思うとどうしても急ぎ足になりがちで、それがつづくとペースも乱れます。お互いの状況を見ながら、臨機応変に判断してください。また登りも下りも数珠つなぎになっているような場合にはとくに注意が必要です。

一生降りれないんですけど!
夏山シーズン真っ盛りの穂高岳。奥穂高岳の山頂と、穂高岳山荘の間はよく渋滞する場所です。小屋の前で休憩していたら、上の方から「いい加減にしてくれよ!さっきからずっと待ってるんだぞ!」と下に向かって叫んでいる声が聞こえてきたことがあります。
登りも下りも数珠つなぎ、そんな場合は、誰か仕切る人がいないとうまくいかないこともあるのですが、数名が登ったら下りの人が数名進むようにしたいもの。どちらかが一方的に待たされると、イライラしてしまう人も出てきますよね。
そんな切迫した状況ではないのですが、近場の低山で非常にげんなりした体験もあります。京都の大文字山に登っていたとき、山頂から火床方面へ下っていたら、ものすごくたくさんの人が登ってくるのに出会いました。はじめのうちは、ひとりひとりに「こんにちは」と言って、こちらは下りなので登山道の脇に寄って譲っていました。ところが何人譲っても、間が空かないんです。「何の団体なんですか?」って聞いたら、某電鉄会社主催の一般公募ハイキング。
事前申し込みは必要なく、誰でも無料で参加できるイベントなので、いつも大人気なのです。毎回、数百名規模の参加者がいることは知っていたので、バッティングしないようにあらかじめそのイベントの予定を確認しておくようにはしているのですが、その日はうっかりしていたのです。
誰かが引率している小さいグループだったら、リーダーがすれ違う人たちに配慮をしてくれることが多いのですが、その手のイベントの場合は、途中に何人かのスタッフが配置はされていますが、参加者はそれぞれ勝手に歩いている状態。団体行動をしているという意識はあまりないようです。
なので、数珠つなぎになって歩いてくるけれど、すれ違う人をずっと待たせているということに気づいていない人も多いみたい。まったく悪気もなく、にこにこと「こんにちは」とあいさつをしてくれるので、こちらもやむを得ずあいさつを返すのですが、ちっとも先へ進めないんですけど……。
スタッフらしき人がやってきたので聞きました。「今日の参加者は何人くらいなんですか?」「今日はかなり多くて、1200人くらいですかねー」……ダメだこりゃ。
でも一般的にグループを引率しているリーダーは、少人数パーティやソロの人とすれ違う際に配慮してくれる場合が多いです。統率の取れたパーティだと、先頭だけではなくて、途中のメンバーも「すれ違いの人が行くから端に寄って!」などとコールをかけてくれたりします。すれ違うのが困難なところがあるルートを歩くときには、ちょっと想像力を働かせてお互いに配慮をしあえるといいですね。
