「岩の間をくぐり抜けて突き進む! 名所盛り沢山の六甲山地『荒地山』岩巡り登山を堪能」でご紹介した荒地山は、その名の通り、荒涼とした岩だらけの山です。一般的には、芦屋のロックガーデン方面から、岩梯子や七右衛門岩のある南尾根を登る人が多いのですが、ほかにもマイナーなルートはたくさんあります。そんな中のひとつが「道畔谷」周辺。
道畔谷は、芦屋川の支流のひとつなのですが、ほとんど知名度はなく、ローカル勢が密かに楽しんでいるだけのマイナールートです。ちょっと悪いアプローチをこなして、谷の分岐点を目指します。

六甲山は日本で最も登山道が多い?
六甲山は、日本で最も登山道が多い山ではないかと言われています。自然発生的にできた山道が無数にあって、網目のようにあちこちでつながっています。
山域によっては、そのような道を「勝手道」と呼んで、なるべく使用しないように呼び掛けているところもあるようですが、六甲山は人々が暮らすエリアに隣接していることから、古くからいろいろな目的で歩かれてできた道が非常に多いのです。
行政が管理している登山道は、一般的な道であり、要所には道標も建てられいます。大雨などで傷んだ箇所があれば可及的速やかに補修が行われるし、年に何回かは草刈りなども実施されますが、それ以外に無数にある山道は、ローカル勢が自主的に整備をしているのが実情です。管理された道ではないので、通行するのはあくまで「自己責任」。
休憩所のような建物を建てるとなると、ちょっとグレーゾーン(というか許可なく建てるのはNG)だとは思うのですが、砂防工事などの際に作業のために作られたものがそのまま残っているというケースも、もしかしてあるのかな……?

給水スポットの名前に注目
そして、もうひとつ六甲山地で特徴的なのは、雅な名前がつけられた銘水スポットがあちこちにあること。とくに荒地山周辺には多いような気がします。「陽明水」「宝泉水」「宝寿水」「松露水」…etc.
花崗岩の山なので、降った雨が地中でろ過される間に、ほどよくミネラル分を含んだ微硬水になります。湧き出る天然水は、まさに「六甲山の美味しい水」なんです。でも、保健所が水質検査をしているわけではないので、これらを利用するのも、あくまで自己責任です。

筆者は、地図で地形を見て、周囲の状況も観察して、大丈夫そうだなと思ったら、わりと気にせず飲んでしまう方なのですが、おなかが弱いヒトなどは気をつけた方がいいかもしれません。
暑い季節は、手のひらや頬を水で冷やすと熱中症対策に効果的。生水を飲むのが心配な場合は、手を洗ったり冷やしたりする程度にしておきましょう。山の湧き水はひんやりしていて、手のひら冷却にはうってつけなんです。

迫力あるボルダーを探索
さて本題。芦屋川の本流から道畔谷へ分岐して、少し上流方向へ進むと、巨大な岩が立ちふさがります。この日は、水は涸れていて、水流はなかったのですが、大雨のあとなどには小滝になりそうな雰囲気です。

よじ登って遊ぶにはほどよく楽しい岩でした。そのまま谷を詰めてもいいのですが、ササヤブがかなりうるさそうなので、北側の尾根へ乗ることにして、かすかな踏み跡を探りながら巻き上がって行きます。息を切らしながら登っていると、ふわっと甘い香りが。 見上げてみたら……。

テイカカズラの花が咲いていました。キョウチクトウ科テイカカズラ属のツル性の常緑樹。ちょっとねじれたように見える白い花からは上品な香りが漂ってきます。名前の由来は、平安貴族で歌人の藤原定家。なんだか気品のある佇まいに、なるほどという感じがします。
謡曲「定家」では、高貴な女性に恋をして、成就することなく亡くなったあとに、定家の魂がこの植物となって、恋しい相手の墓に絡みついていたというストーリーになっているそうです。季節の花を愛でながら、岩場が連続するパートをガシガシ登って北尾根へ。
