近年、可愛い悪魔とも呼ばれるクリハラリスの増加が続いています。特に神奈川県では、異なる3か所を起源としてそれぞれ分布を拡大しており、10万匹が生息していると推定されています。各所からは、生態系だけでなく、住宅や電話線などの生活インフラへの影響も報告されており、関心が高まっています。
こうしたクリハラリスの現状と生態系の問題について、リスの生態にお詳しく、クリハラリス研究の第一人者である田村典子先生(森林総合研究所 多摩森林科学園 研究専門員)にお話を伺いました。
日本の在来動植物を脅かす存在なのか?
クリハラリスは、日本の固有種である在来動植物に対して、さまざまな形で影響を与え兼ねません。
「日本に本来いるリス類は、ニホンリス、エゾリス、エゾシマリス、ムササビ、ニホンモモンガ、エゾモモンガの6種で、どれも日本の固有種であり、希少種でもあります」と田村先生。
クリハラリスは、これら在来のリス類と、巣穴となる木にできた穴「樹洞」を奪い合うことに加え、目に見えない影響も懸念されています。

それが、樹洞を経由して寄生虫や感染症がうつること。田村先生は、「これには先例があり、英国では外来種のトウブハイイロリスを介して在来のキタリスにリスポックスウイルスが伝染し拡大しました。現在キタリスの生息域は著しく減少し、生息域は特定の地域に限定されています」と、感染症媒介のリスクの重大性について言及されています。
また、在来種を脅かす要素は感染症だけではありません。「感染症の媒介以外にも、餌の奪い合いが深刻な問題として考えられています」と田村先生。

ニホンリスが好むオニグルミやアカマツなどが生育する地域にクリハラリスが侵入し始めているため、餌の奪い合いが起こる可能性があるのです。

森林破壊とインフラ遮断を引き起こす「困った行動」
クリハラリスは、森林環境や人間の生活にも影響を及ぼします。「巣材にするために樹皮を頻繁に剥がしたり、ヤブツバキなどの甘い樹液をなめるために樹皮をかじることで、木が枯れる被害が出ています」と田村先生は被害の実態を解説します。
公園など人通りがあるところで倒木や、枝が折れて被害に合う人が出てくるかもしれません。

さらに、生活インフラへの影響も無視できません。
「電気配線や電話線がかじられ、停電や電話が不通になったことがあります。光ケーブル切断事故も起こり、ある日突然通信ができなくなったという話も聞きます」と、大規模な被害もある様子。また、住宅への侵入についても、木製の戸袋や、天井裏、押入れなどに侵入される事例が報告されているそうです。
産業にも影響を及ぼす、可愛い悪魔!
一般の住宅でも庭木の果物で被害が出ていますが、産業などでは影響はないか伺ったところ、神奈川県では農作物の被害が報告されているようです。それでも、「農地がさほど多くない地域では、早期に対策を講じることで被害を抑制できています」とのこと。
果物が主要農産物である地域でも、「将来的な被害を想定し、予算を割いて早期に対策を実施した結果、すでに功を奏している地域もある」そう。爆発的に増える前よりに対策をすることで、予算や労力などが、低く抑えられ可能性があります。

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