ずいぶん前のことですが、とある年配のご夫婦のこと。仲良く一緒に山登りにでかけたはずが、奥さんだけが行方不明になるという不思議な事件がありました。

バテそうだから先に行って
この話を聞いたとき、二人で一緒に山に行ったのに、そのうちの一人だけ行方不明になるってどういうこと? しかも奥さんだけが行方不明ってどうして? と、とても不思議だったのですが、次のようないきさつだったようです。
妻に、「あなたのペースで歩くとバテそうだから先に行って。私は私のペースでゆっくり行くから」と言われ、夫は一人で先に行くことにしたそうです。
下山地について、妻が降りてくるのをじっと待っていたのですが、いつまで待っても降りてこない。心配になって、あとから降りてくる人たちに妻の年恰好を伝えて、会わなかったか聞いてみたものの、誰も追い越してもいないし、見ていないといいます。
最終的に救助要請をすることになるのですが、一人で歩いていた妻は、分岐を間違え、予定ルートとは違う道に入ってしまい、自力で下山できなくなっていました。
「いくら本人が先に行ってと言ったからといって、自分だけさっさと先に降りてしまうとか、どないやねん! なんちゅう薄情なオッサンやねん!」と憤ったのですが、よく考えると、けっしてそういうことは珍しいことではないのかもしれません。
筆者も、引率時に
「みんなと同じペースで歩けない。足を引っ張ると申し訳ないので、先に行ってください」というような意味のことをよく言われます。でも、置いていくわけにはいきません。それは遭難の第一歩になるかもしれないことだから。

パーティがばらばらになってはいけない理由
グループで行動しているときに、自分が遅いせいで、みんなに迷惑をかけるわけにはいかない。そういう気持ちになるのは理解できます。まわりにきちんと配慮できる人ほど、全力で「私は大丈夫なんで、皆さんは先に行ってください!」と言います。
「ここで少し休んでから追いかけますから」とも。
しんどいとき、ちょっとゆっくり休みたいのに、みんなにじっと待たれると落ち着かなくて、気が休まらない。先に行ってくれる方が、気分的にラクなの。……わかります。でもダメです。
パーティから一人離れてしまって、遭難してしまったという事例は、いくつもあります。
例えば、とある団体が、かなりの大人数での登山を企画しました。いくつかの班に分かれて、それぞれ引率者がついて歩いてのですが、下山してみると、一人足りない。引率側は、どこではぐれたのか、まったくわからなかったそうです。
じつはその人は、途中で用足しをしたくなったのですが、恥ずかしくて男性リーダーに言い出せなかったそうです。そこで、休憩のときにこっそりと本隊を離れて藪の中へ……。
すぐに戻ってさりげなく合流するつもりだったのですが、ちょっと離れている間にみんなの姿は見えなくなってしまい、追いつこうと急いで歩きだしたものの、途中で道がわからなくなってしまったのだそう。
いつも一緒に行動している仲間たちや、少人数のグループならそんなことは起きないと思うのですが、寄せ集めのにわかパーティだったため、その人がいなくなったことに誰も気づかなかったようです。
結果的にその人は無事に発見されるのですが、山の中に一人ぼっちで取り残されて、道もわからなくなったとしたら、どんなに不安だったでしょうか。
普段の感覚でいるのは危険
「もし何かあれば携帯で連絡するから大丈夫」。街中では、仲間と別行動をすることはよくあると思います。お友達と一緒にショッピングをしていても、見たいお店が違うので、「じゃぁ、また後で!」といったん別れ、LINEで連絡を取り合って合流するようなことって、ふつうにありますよね。
でも、山の中では、携帯電話がつながるとは限りません。距離的にそんなに離れていなくても、携帯電話の電波は、お互いの端末同士の距離は関係なくて、基地局の電波を拾えるかどうか。見通しのいい山頂付近であっても、案外携帯圏外の場所はありますし、谷筋だったりするとなおさらです。
もしはぐれてしまっても、携帯電話で連絡を取り合えるから大丈夫、と思っていても、それができないというケースは珍しくないのです。


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