イマドキの登山用ウェアは非常に高性能で、汗処理機能を持つものだと特に、汗で身体がべたついたり、汗冷えしたりという不快感は少なくなりました。しかし、汗をかいた自覚がないまま、「隠れ脱水症」になっている可能性がある点には注意が必要かもしれません。それはさておき、登山時のウェアリングの基本は、「レイヤリング=重ね着」です。

皮膚表面を常にドライに保ってくれる「汗処理」機能を持ったインナー、その汗を吸い上げて、外側へと放出する即乾性のあるミドルウェア、気温が低かったり、風が強いときに体温を下げないように守ってくれる防寒着。
さらに、悪天時に風雨をシャットアウトするレインウェアなどのアウターを必要に応じて着用します。 4種類の機能を持つウェアを組み合わせることによって、気温や天候、運動量に合わせて、常に快適に過ごせるように体温調整をするのが、熱中症や低体温症などを予防するために重要な要素です。
レイヤリングを知らないとどうなる?
ずいぶん前のことなのですが、山歩きの講座に事前講習なしで参加され、その「レイヤリングの基本」を知らない方が来られたことがあります。
気温がまださほど高くない時期で、歩きはじめは薄手のジャケットを着たままの人がほとんどという状況だったのですが、登りが急になってくると、うっすら汗をかくようになってきたので、衣服調整の指示を出しました。
「暑いようなら、汗をかく前に一枚脱いでくださいね」とお声がけをしたところ、ほとんどの方が、ジャケットを脱いで、山シャツ姿になっていました。
そんな中、かなり分厚そうなジャケットを着たままの方がおられて少し気になっていました。しばらくすると、その方の歩調が遅れはじめて、かなり辛そうな感じに。とりあえず安定した場所で休んでもらって様子を見ると、かなり汗をかいています。
「そのジャケット、脱いだ方がいいですよ。暑いでしょう」と言ったのですが、
「ちょっとこれは脱げません」
「……?」
聞いてみたら、どういうわけか、中に着ているのはおしゃれな街着のタンクトップ。どういうわけでそういう衣服のチョイスになったのか、まったく想像もつかないのですが、過去イチ驚いたケースでした。脱いだり着たりがめんどう、というズボラさんたちにも注意が必要です。
行動中は、暑いのも寒いのも我慢をせずに、こまめに調整してください。「着たままでずっと快適」を謳い文句にしている製品もありますが、機能が追いつかない状況は実際にはよくあります。

水分補給の基本セオリーは?
では、どれくらいの水分を補給するべきなのでしょうか。これに関しては、鹿屋体育大学の山本正嘉教授の著書『登山の運動生理学百科』(東京新聞出版局)から引用します。もちろん、歩くコースの傾斜や、歩くスピード、気温や湿度によっても発汗量は変わってくるのですが、目安として、次の式を使います。
脱水量(ml)=体重(kg)×行動時間(時間)×5
例えば、50㎏の人が、5時間歩くとすれば、
50×5×5=1250ml
60kgの人なら1500ml、70㎏の人なら1750mlです。
理想的には、脱水量と等しい水分を補給するべきなのかもしれませんが、持てる荷物の重さにも限界があるし、現実的には脱水量の70~80%を補給すれば大丈夫とのこと。体格や行動時間によりますが、おおむねペットボトル3本くらいを目安に持っておけばいいという感じですね。
補給のタイミングとしては、「なるべくこまめに」。1時間に1回の休憩でガブガブ飲むのではなく、少しずつ、細かい間隔で飲む方が脱水予防には効果的です。

水容器をバックパックに入れたまま、口元に伸ばしたチューブで飲める「ハイドレーションシステム」を使えば、バックパックを下ろすことなく、好きな時に好きなだけ飲めるので、レースに出るとか、タイムを競うとか、長距離を急いで歩く場合には便利です。
ただし、容器やチューブの洗浄・乾燥が地味にめんどくさくて、筆者はなんとなく使わなくなってしまいました。