日本を代表する絶景と言えば、天橋立・松島・宮島の「日本三景」。江戸時代初期に儒学者・林春斎が選んだとされ、古くから親しまれてきた名所です。実はこれとは別に「日本新三景」と呼ばれる景勝地が存在することをご存じでしょうか。
1916年に読者が決めた3つの景勝地とその共通点
日本新三景が生まれたのは1916年(大正5年)。実業之日本社の雑誌『婦人世界』で読者投票が行われ、静岡県「三保松原」、北海道「大沼公園」、大分県「耶馬渓」が選ばれました。
日本三景が学者の選定だったのに対し、新三景は「読者の声」で決まった点が当時としては画期的な試み。選ばれた新三景の地には記念碑も建てられています。
3つの景観に共通するのは、雄大な自然の中に人の歴史や営みが溶け込んでいること。松原・湖沼・渓谷と舞台は三者三様でありながら、いずれも「人が長い時間をかけて関わり続けてきた景色」です。大正の読者が票を投じた風景とはどのようなものか、それぞれを見ていきましょう。
(1)松林と富士山が交わる場所・三保松原
静岡市清水区、駿河湾に沿って約5kmに広がる三保松原。青い海と松林、その奥に姿を現す富士山とのコントラストはまさに絶景です。
日本三景のいずれもが海や砂州といった地形の奇観を誇るのに対し、三保松原の魅力は景観の「奥行き」にあります。松林・海・富士山という三つの要素が一つの視界に収まる構図は、江戸時代から絵画や和歌の題材であり続けた普遍的な美しさです。

松林の中ほどには天女の羽衣伝説で知られる「羽衣の松」があり、古くから和歌・浮世絵にも描かれた名所。また2013年には世界遺産である富士山の構成資産として登録されました。海風と松の香りに包まれながら歩くと、時代を超えて大切に守られてきた景観の美しさを実感できます。
(2)噴火が生んだ逆説の絶景・大沼公園
北海道七飯町に広がる大沼公園は、秀峰・駒ヶ岳の噴火による火山泥流が川をせき止めて生まれた湖沼群。大小の島々が点在し、湖面に駒ヶ岳が映り込む光景は息をのむ美しさです。

噴火という破壊の営みが、静かな湖と無数の島々を生み出した——大沼公園の美しさには、そうした逆説的な成り立ちがあります。自ら景観を作り出した山を湖面に映るその姿で眺めるという体験は、ほかでは得難いものです。
20世紀初頭にはすでに観光地として知られており、1922年には国の名勝として指定、1958年には国定公園へ昇格しました。遊覧船や散策路で四季の表情を楽しめ、冬には氷上アクティビティも体験できます。
(3)人と自然が刻んだ渓谷美・耶馬渓
大分県中津市の耶馬渓は日本有数の渓谷美を誇るスポット。火山台地が長い時間をかけて侵食され、無数の岩峰と切り立つ谷が連なる景観を生み出しました。3つの新三景の中で人の歴史が自然にもっとも色濃く刻まれた場所と言えるかもしれません。

また本耶馬渓・深耶馬渓・奥耶馬渓などエリアごとに表情が異なり、「競秀峰」や「一目八景」は外せない見どころ。旧耶馬溪鉄道の廃線跡を利用した「メイプル耶馬サイクリングロード」を走れば、渓谷の自然美と近代の産業遺産が交差する独特の風景に出会えます。春は新緑、秋は紅葉が谷を彩り、四季ごとに訪れたくなる場所です。
三者三様の自然美を持ちながら、いずれも人の歴史や営みが景観に溶け込んでいる——それが日本新三景の共通した魅力です。日本三景ほど知名度は高くないものの、大正の読者が「美しい」と感じた風景は100年を経た今も変わらずそこにあります。次の旅では定番の三景に加えて「もうひとつの三景」を訪ねてみませんか。
【詳しくはこちら】
◆三保松原(静岡市)
https://miho-no-matsubara.jp
◆大沼国定公園公式観光サイト「大沼ップ」
http://onumakouen.com
◆中津耶馬溪観光協会
https://nakatsuyaba.com

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