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日本の森を象徴するメガファウナ! ニホンジカの生態と自然を破壊する問題点

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古から日本人に親しまれてきたニホンジカ。タイトルの「メガファウナ」という言葉を聞き慣れない方も多いかもしれません。これは、体重が約45kgを超えるような大型動物の総称です。日本ではクマ、イノシシ、カモシカ、そして今回の主役であるシカなどがこの日本のメガファウナに含まれます。実は今、こうした大型動物の中でも、シカが日本の森に及ぼしている影響はクマ以上に深刻なものとなっています。

ニホンジカは分布を広げていると言われていますが、本当に増えているのでしょうか? また、クマの出没との関係は? 今回は、2025年10月発売の書籍『野生動物の保全と管理の事典』で「野生動物の分布拡大とその要因」について執筆を担当された、森林総合研究所 多摩森林科学園の主任研究員、岡 輝樹先生にお話を伺いました。

そもそもニホンジカとは?

ニホンジカは、日本列島の環境に合わせて進化し6つの亜種に分かれています。日本最大級で最大150kgにもなる北海道の「エゾシカ(下の写真)」、本州の「ホンシュウジカ」、四国・九州の「キュウシュウジカ」、屋久島の「ヤクシカ」など、島特有の環境に適応しています。

成獣で体長100~150cm、体重はメスで30~50kg、大きなオスでは100kgを超えることもあります。シカは、草、木の葉、ササ、ドングリ、樹皮などを食べる草食動物です。

最初は柔らかいシカの角の不思議

シカの角はオスのみに生えます。毎年3~4月頃に抜け落ち(落角)、その後、血の通った柔らかい袋角が伸び始めます。

この袋角は漢方では「鹿茸(ろくじょう)」と呼ばれ、古来より強壮剤などの貴重な原料として珍重されてきました。現在でも漢方薬やサプリメントの原料などに幅広く活用されています。

柔らかい袋角は夏にかけて骨化し、秋には立派な「枝角」が完成。これは繁殖期の武器になりますが、非常に鋭利で人間が刺されて亡くなる事故が起きているため、秋の山周辺では特に注意が必要です。

森の中で見つける痕跡

少し長めの米俵のような形で、まとまらずパラパラとしていたらシカのフンです。足跡は2つに割れたひづめ跡ですが、シカ・イノシシ・カモシカの足跡は見分けがつきにくいそうなので、フンと合わせて判断するのが確実です。またシカの鳴き声をYouTubeなどで確かめて山で耳を澄ますのもオススメです。

山で出会った時の注意点

アウトドア好きの方は、もしかしたら山でシカに会うことがあるかもしれません。出会った際の注意点を伺ってみると「シカは臆病なので、基本的にはすぐに逃げてしまいます」と少し意外な答えが返ってきました。ただし、場所やタイミングにより角で人が刺されて亡くなることもあるので、出会った時には十分な距離を保ち、静かに観察することが大切です。

増えすぎ注意! ニホンジカの問題点

日本では、旧石器時代の昔からシカと関わりを持ち、縄文時代の遺跡からはシカの骨や角を活用した道具類が出土しています。しかし戦前から戦時中にかけて数を減らし、戦後、人々が気づいた時には遭遇率が低くなり、珍しい存在となってしまいました。

そこで、絶滅させてはいけないと捕獲が規制されました。またその後の環境変化などで、近年は推定生息数は約260万頭(2020年度推計)を超えています。主にホンシュウジカ、キュウシュウジカ、エゾシカが増え、分布を拡大させつつあり、増えすぎたシカによる経済的被害が問題視されています。

「農林水産省の統計によると野生鳥獣による農産物被害額は164億円(令和5年度)。そのうちシカによる被害は約70億円と全体の約4割を占め、現在、最も大きな被害源となっています」と岡先生は指摘します。丹精込めて作った稲、野菜、果樹などが根こそぎ食べられてしまうそうです。

また、林業被害も深刻です。「シカによる林業被害面積は年間約4,000ヘクタールに及び、これは野生鳥獣による林業被害全体の約6割に相当し、1ヘクタールあたりの被害額は140万円程度にのぼります」と岡先生。

シカが樹皮を食べることによる倒木だけではなく「せっかく植えた苗木を食べてしまう『食害』が、林業の衰退と後継者不足に追い打ちをかけている」そうで、想像以上に被害が大きいことがわかります。脱炭素のためには森林を保持することが必要不可欠なのに、これでは森林のサイクルが壊れてしまいます。

生態系への影響も強烈です。「シカは1日に3~5kgほどの餌を食べますが、希少な高山植物や下草までも食べ尽くし、それらを拠点にしていた昆虫や小動物がいなくなる『生態系の崩壊』を引き起こしています」と岡先生。

また、下の写真のように地面が剥き出し(裸地)になることで、雨による土砂崩れや表層崩壊が起きやすくなり、実際に滋賀県の伊吹山ではシカの食害が要因のひとつと言われる土石流が発生としています。

「防除」と「捕獲」の両輪、そして「管理」の難しさ

シカ対策には、柵などで守る「防護」と、数を減らす「捕獲」の両輪が欠かせません。

「耕作放棄地や、手入れができない果樹、家庭菜園などが狙われている場合は、『少しなら良いか』と思わず、しっかり柵をしてほしい」と岡先生。これは人間に依存させないために重要です。

一方で、すでに増えすぎた現状では、捕獲が必要となってきます。「シカは年間20%程度の勢いで増加しています。しかし現在、毎年増える分の頭数(自然増加分)すら、十分に捕獲できていないのが現状」だそうです。

江戸時代には、軍事訓練や農作物の被害防止のために、殿様の号令の下、農民も参加して数千頭から1万頭以上も捕獲する大掛かりな狩りを行っていた記録が残っています。

その捕獲量でようやくバランスが取れました。「現代においても管理のための捕獲は必要ですが、もちろん絶滅させてはいけません。あくまで適切な生息数に導く『管理』が求められているのです」と、バランスの重要性を強調されます。

クマ出没との関係は?

「現代のシカ問題は、2025年のようなクマ問題とは現段階では直接的な関係がありません。」と岡先生。しかし、現在はハンターの高齢化・減少などから継続的な管理が難しく、里山の人口も減っています。

「シカや、イノシシなどの野生動物が里に出てくるのは、人間側からの『圧』が減っているのは確か」だそうで、野生動物が出てきづらい環境作りは大切ではないかと思いました。

シカ肉は究極のオーガニック食!?

現在、駆除されたシカのうち利用されているのは約10%程度。残りは廃棄されています。「命を奪う猟師の中には、精神的ストレスを感じる人もいます。それが『いただきます』や『ありがとう』に変われば、そのストレスは報われ、救われます」

また、大自然の中で育つシカ肉には大きなメリットがあります。

高タンパク・低脂質でDHAなどが含まれるほか、家畜のように抗生物質や成長ホルモン剤を投与されることがありません。自然の草木を食べて育った、まさに天然のオーガニック食材です。