【日本クマ事件簿 vol.01】大雪山で登山者をヒグマが襲い1人死亡【北海道エリア】

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2023年(令和5年)5月14日、北海道幌加内町の朱鞠内湖で、釣り人1名がヒグマに襲われ死亡する痛ましい事故が発生しました。春は、クマが冬眠から目覚めて活発になる時期。各地での目撃情報も相次いでいます。

明治以降、令和に至るまで、日本で起きた数々の熊害死亡事故を網羅した『ニッポンクマ事件簿』(三才ブックス)。過去の事例から学べることは多くあります。同書掲載の記事より、1949年(昭和24年)7月に北海道、大雪山旭岳で1人が死亡した事例を転載します。

              

雄大な山々がそびえる厳しい山岳環境での事件

「大雪山」とは特定の山を指すわけではなく、標高2000m級の山々が20以上連なる巨大な山塊のことを意味する。北海道中央部に位置し、「北海道の屋根」とも形容される火山群の総称だ。古くからアイヌの人々は「カムイミンタラ」(=神々の遊ぶ庭)と呼び、崇敬と畏敬の対象として神聖視されてきた場所でもある。

なかでも最も若い火山で、今なお複数の噴気孔から空高く水蒸気を噴き上げる「旭岳」は、大雪山の主峰であり北海道の最高峰。標高は2291mだが、緯度が高いことから、本州の3000m級の山に匹敵するほど山岳環境は厳しい。その高さや環境から、全国の登山愛好者たちが一度は登りたいと憧れる山の一つだろう。標高約1600mの5合目まではロープウェイが通っているため、ルートを選べば、初心者やファミリーでも挑戦しやすいところも魅力だ。

                     



                 

暗闇の登山路で鉢合わせ、唸り声を上げた熊に襲われる 

1949年(昭和24年)7月30日、北海道秩父別町から来た男性9名のパーティーは、愛山渓温泉で昼食をとっていた。同地はアカエゾマツの原生林に囲まれた秘湯として知られている。旭岳をはじめ、大雪山に属する黒岳や北鎮岳などへの登山の拠点として活用されることが多い。

彼らが選んだルートは、愛山渓温泉から標高1400m付近の沼ノ平と、中腹の裾合平を経て旭岳山頂を目指すというもの。登山の経験があったかどうかはわからないが、全員が無装備で、往復約26kmを日帰りする予定だった。

午後1時頃に出発したものの予想外に難航し、標高1600m付近の「姿見の池」に到着した時はすでに夕方を回っていた。ここから山頂までは歩きやすい一本道が続くが、辺りは薄暗いこともあり、4名は疲労のため引き返すことになる。クマが襲ったのは、この引き返した4名のパーティーだ。

4名は午後7時頃、当麻乗越から約1km下の第2展望台に到着し、これから下る沼ノ平へのつづら折れの登山路を確認した。すると、登山路を登って来る1頭の巨大なクマの姿が目に飛び込んで来た。

4名は無装備だったため、クマ除けスプレーなどの護身用グッズも当然持っておらず、クマを追い払うべく必死に大声を上げると、かえって刺激されたのか、クマは立ち上がって唸り声を発し、さらにズンズンと近づいて来る。一行は、第2展望台下の笹薮に飛び込んだが、A(21歳)だけがクマに押し倒されて犠牲となってしまった。しばらくAのうめき声が山中に響き渡っていたが、残りの3名はどうすることもできず、静かに身を隠すほかなかった。

午後9時を過ぎた頃、無事に登頂し、山頂から戻って来た残り5名のパーティーが現場に差しかかり合流。暗い中を下山するのは危険と判断し、8名は同じ岩場に隠れ、夜が明けるのを待った。

 

 

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