たどり着けるかは運次第!? 究極の秘湯・野湯探検記【vol.16 番外編】 難易度高すぎ!! 涙のリタイアを強いられた野湯たち

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  • 沢歩きでは何度も転倒しそうになった
  • 2度目のチャレンジで入湯できた「たつ子の湯」
  • 岩の上を温いお湯が僅かに流れていた
  • ピラの湯の付近に湯船は見つからない
  • GPSで現在地を確認して間違いに気づく
  • 辺りから硫黄臭が漂い野湯が近いと勘違いした
  • この沢の上流にたつ子の湯があると思い込んでいた
  • 谷沿いをトラバースしながら進む
  • 沢は狭まり行く手を阻まれる
  • 沢には倒木も多くなかなか進めない
  • たつ子の湯を目指す道中
  • たつ子の湯を目指す道中
  • たつ子の湯を目指す道中
  • たつ子の湯に向かう途中の砂防ダムを迂回する
  • 深く落ち込んだ沢を渡る
  • 登山道から間違った沢へ降りて行く
  • 間違いに気ずかずどんどん登る

「野湯(のゆ)」とは、自然の中で自噴していて、それを管理する商業施設が存在しない温泉のこと。この連載では、野湯マニアの著者が実際に足を運んで入湯したことのある、名湯・秘湯・珍湯(?)の数々を紹介している。

タイトルの「たどり着けるかは運次第!?」は嘘ではない。そうはいっても、連載ではこれまで困難を乗り越えて野湯に到達するまでを書いてきたが、今回は番外編。泣く泣く途中で諦めた失敗の数々を紹介したい。

苦難の末に見つからなかった栃木の秘湯 【御宝前の湯】

現代の野湯探索は、GPSを活用して、現在地をスマホなどで確認しながら行うのがセオリー。だが、実は私は、昭和の時代から数十年以上、紙の地図と自分の勘を頼りに日本全国を旅している。ネットで調べることくらいはするが、GPSの使用も同行の仲間頼りだ。

私が野湯探索を始めた2000年代。野湯の情報は現在と比べて極めて少なく、ネットを検索してもわずかな情報しか得ることはできなかった。その頃、まだまだ野湯経験の少ない仲間4人で、那須山中の「御宝前の湯」を初めて目指した。

那須連山の標高1200mの高地に広がる沼ッ原湿原の駐車場からスタートし、皆で意気揚々と登山道を歩き始めた。数分ほど行った先の分岐を、湿原に入る道ではなくショートカットのため右折して進むが、緩やかな登りのハズがどんどんと高度を稼いでゆく。

1時間ほどで標高差300mほど登ってしまう。さすがに間違いに気づいた。スタート地点の駐車場に戻り、かなりの体力と2時間もの時間をロスして駐車場から再スタート。

茶臼岳への登山道を30分近く進むとようやく野湯の上流と思われる谷底に出た。しかし、事前情報では涸れた沢のヤブコギとのことだったが、かなりの水が流れる沢。数日前の大雨の影響だろうと思い込み、その沢に入り込み下り始める。もちろん道は無く、ひたすら下流を目指すのだ。

沢歩きの装備も経験も不十分だった我々は、冷たい水を避け、登山靴のまま濡れないように沢岸を歩き、岩や崖を乗り越えて進む。

ヤブこぎを強いられることが多く、急斜面を這いつくばるようにしてよじ登り、転がるように沢に降りることを繰り返した。苔むした大岩などを乗り越えるのに、足場が滑って転倒もした。顔にクモの巣がかかったり、鋭利な枝が頬を突き刺したりもした。

沢を200mも下れば、目指す野湯に到着するハズなのだが、既に1時間以上ヤブと沢と崖と格闘しているのに、野湯に着かない。ただ、沢のあちこちで温泉成分が沁み出ている。

時刻は既に15時過ぎ。メンバーの体力はどんどん消耗。帰りにかかる時間を考えると、これ以上進むのは危険と判断せざるを得ない状況。

一縷の望みをかけて、一番若いメンバーが一人で沢を下って視察に出る。30分後に彼は戻ってきたが、滝の上部に出てそれ以上は進めなくなったとのことであった。その時初めて、野湯のある谷とは違う谷に入っていたことに気づいたのである。

疲れ果てていたメンバー一同、愕然とした。野湯に辿り着けなかったことよりも、今下ってきたこの沢を登り返さなければならないという事実に、泣き出しそうだった。

そうはいっても、戻るしかない。全身泥だらけ、傷だらけで、ずぶずぶの濡れネズミのようになって何とか登山道に戻り、どっぷりと日が暮れた頃にかろうじてクルマに生還できた。

雪の谷底で転倒しあわや遭難寸前に……【たつ子の湯】

秋田県乳頭温泉郷の奥に、半世紀以上前に閉鎖された一本松温泉がある。跡地では現在もお湯は湧き続けている。「たつ子の湯」だ。

グリーンシーズンなら、初心者でも簡単にアクセスできる野湯だが、豪雪地帯の雪の野湯に憧れて、あえて2月の深雪の季節に野湯探索に向かった。メンバーは野湯仲間と、野湯も雪山も初体験となる彼の妻を連れての3人。2015年頃の話だ。

乳頭温泉郷の孫六温泉をスタートし、スノーシューで沢沿いの道らしき場所を登ってゆく。積雪が1m以上あるのでどこが道か定かではないのだ。

15分も進むと沢の対岸は、崖の至る所から噴煙が立ち昇る乳頭温泉郷の源泉地帯となる。その谷底に「先達川の湯」という野湯があるので、雪で覆われた崖を慎重に谷底まで降りて行った。

しかし、沢を渡る際に初心者の女性をサポートしていた時、凍りついた岩で足を滑らせ川の中に転倒してしまった。その際メガネを川の中に落としてしまい、しかも下流へどんどんと流されてゆく。ずぶ濡れになりながら川の中を走り、何とかメガネは確保したが、パンツの中までビショビショになり、氷点下の中で凍え上がった。

あまりの冷たさと寒さに、先達川の湯の探索どころではなくなり、とにかく私はクルマまで戻って着替えることにした。夫婦2人は無事だったので、先に「たつ子の湯」を目指してもらい、私は着替えてから彼らのトレースの後を追うことにした。大急ぎで雪山の二人のトレースを駆け足で登ってゆき、30分ほどで彼らに追いついた。

谷沿いをトラバースしながら進む

更に登り、急こう配の斜面を横歩きでトラバース。その先には先達川の支流と思われる深く落ち込んだ沢があった。

実は、その沢が先達川の本流で数100m上流が「たつ子の湯」だったのだが、その時点ではそうは気づかず。別の谷間を流れる沢までわざわざ移動してそこを上流へ向かい始めた。

すると周辺から硫黄臭が漂ってきたため、この先で間違いない! と確信してしまった。スマホなどでの現在地確認をすることもなく、硫黄の香りのする谷をどんどんと登って行く。しかし登っても登っても「たつ子の湯」らしき野湯は発見できない……。

いい加減におかしいと思って初めて、仲間がスマホのGPS機能で現在地を確認。すると野湯のある谷とは違った谷の奥深くまで入り込んでいることが分かった。時間は15時を回っていた。冬場で日も短い。残念だったが引き返すことにした。

日没が迫っていたのでショートカットルートを選んだが、これがまた川に阻まれてなかなか進めない。クルマに辿り着いた頃には辺りは暗闇。あやうく雪山で凍死してしまうところだった……。

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