ソトラバ

山名の由来は平安時代の悲劇から? 数年前に大崩壊した「ゴルジュ」の現状をルポ

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  • 赤子滝
  • 水路道
  • 源頭
  • 赤子谷ゴルジュ
  • 崩壊箇所3
  • 崩落箇所2
  • 岩屑
  • 崩壊箇所
  • 分岐
  • 水路橋

平安の昔、左大臣万里小路盛通の子息で通麿という貴公子が、浅茅という妓女を見初めて恋に落ちました。しかし、身分違いの恋が許されるわけもなく、二人は手に手を取って駆け落ちすることに。

住み慣れた都を離れて、はるばると有馬温泉まで流れてきました。浅茅が得意の琴を弾き、通麿は笙を吹いて、湯治客相手の余興を演じて暮らしていました。やがて二人は愛らしい子どもを授かり、貧しいながらも幸せな日々を過ごしていたのですが、ある時通麿が病の床につき、亡くなってしまいます。

身寄りもない地で突然最愛の夫を喪い、途方にくれた浅茅は、赤子を抱いて、都へ帰ることに。湯の山街道を東へ進み、船坂を過ぎてしばらく歩いてこのあたりにさしかかったとき、突然赤子が、火が付いたように泣き出したそうです。乳を飲ませようとしましたが、心労のためか乳は出ず、やがて赤子は力尽きて死んでしまいました。

重なる不幸に泣き崩れ、もはや生きる気力をなくした浅茅は、自ら命を絶つことにしました。

背負っていた琴を取り出し、都の方を向いて、亡くなった夫と先立ったばかりの愛児を弔うため、『生者必滅』という曲を静かに奏でて、山中で一人寂しくこの世を去りました。

それ以来、この山の下を通ると、どこからともなく琴の音が聞こえ、谷筋からは赤子の泣き声が聞こえる……という噂が流れるように。

そして、その山は琴鳴山、谷は赤子谷と呼ばれるようになったそうです。

六甲山地でも屈指のゴルジュを持つ谷

赤子谷は、六甲山地の北斜面にある沢で、右俣・左俣とふたつの流れがあります。西側を流れる右俣の方は傾斜もゆるく、さほど難所もないのですが、東側にある左俣の方は急峻で、小さいながらもいくつも滝がかかり、低山とは思えない深いゴルジュ(狭く深い谷地形)を持つことで知られています。ちょっとしたバリエーションルートとして人気があるのですが、数年前に大規模な崩落が起きて、危険で近寄れない状態になっていました。

そろそろ落ち着いている頃では……? と思って、探索してみることに。

JR福知山線生瀬駅を起点にアプローチします。集落のはずれから、山腹を水平に巻くように水路が作られていて、その水路沿いの道をたどっていきます。

水路道

ご近所のみなさんの散歩道でもあり、赤子谷方面へ向かうハイカーの通り道でもあり。緑陰の心地よい道です。

かつて、この地域でも農業が盛んだった時代に利用されてきた水路のようで、レトロな遺跡っぽい施設が点在しているのも面白いです。

水路橋

水路なので、ほぼ水平に近い状態で続いているのですが、谷地形の部分では、水路が道よりずっと上に設置されているところもあります。赤子谷と出合う地点から、水路道を離れて、沢沿いに上流を目指していきます。やがて現れるのが「右俣・左俣分岐」。レトロ感のある道標が設置されています。

分岐

ここから、左俣側へと進んで行きます。しばらく行くと、右手の上方に生々しい崩落痕が見えてきました。

崩壊箇所