【書評】今どきまっとうなアウトドア本 vol.09『「サボる」防災で、生きる』

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アウトドアグッズは日常で使うにも優秀

きちんとしたアウトドア用品は、非常に使い勝手がよく、しかも丈夫。日常使いにも優れています。

私事ですが、阪神淡路大震災が起きた28年前のこと。1月17日は、二泊三日の雪山登山から帰った翌朝でした。激しい縦揺れ、横揺れでたたき起こされた時、部屋の中は真っ暗。

真冬の5時47分、関西はまだ完全に夜明け前でした。寝ていた場所から手の届くところに、山から帰ったまま荷ほどきしていないザックがあったので、手探りでヘッドランプを出しました。

棚などの家具が倒れ、中身がすべて放り出されて床がまったく見えない状態。とりあえずまだ水圧が少し残っている蛇口から山用の水入れに水をため、携帯ラジオをON。のんびりとしたアナウンサーの声が「さきほど大阪で地震があり、通行人がけがをしている模様」と告げたのを聞き、呆然としました。

その後、山用のストーブとクッカーで山行予備食のラーメンを作ったのですが、ご近所で朝ごはんを食べられたのはうちだけだったかも……。

以来、「山道具は非常時にも役に立つから、少しくらい高価でも揃えておいて損はない」と後輩に言い続けてきたのですが、同様のことを、きちんと体系立てた手法で、よりスタイリッシュに、多くの人に伝わるように啓発してきたのが寒川氏なのだろうと思います。

「サボる」防災で、生きる「寒川家自宅」

電気やガス、水道が使えないというのは、ふつうの人にとっては、非常に困惑する状況だと思います。しかし、「キャンプ」というのは「あえてそういう状況を楽しむ」ことだったりします。

キャンプはおのずと防災力を高めてくれる

本書で一貫して訴えているのは、「アウトドアでの行動力」=「防災力」であるということ。

決して「防災力を身につけるために訓練的にキャンプをしよう」ということではありません。「日常の一部としてキャンプを楽しむこと」が、結果として防災力を高めることにつながる。それが、肩の力が抜けた「サボる」防災、という提案です。

ガスコンロがないところで火を熾すこと、水道がない野外で煮炊きすること、屋根も壁もない野外で眠ること。それらのことを、楽しみながら実践する。

「サボる」防災で、生きる「ククサ」

家族や仲間たちと、日ごろから野外生活を楽しむ習慣があれば、もしも大規模災害が起きた時に、劣悪な環境の避難所生活をせずにすむかもしれません。

どんなところなら安全に寝泊りできるのか、何があれば野外で快適に過ごせるのかを知っていれば、「避難」に対する考え方が変わるかもしれません。「非常時なのでしかたがない」ではなく。

本書には、美味しそうなアウトドアレシピも紹介されており、食いしん坊としては、さっそくこのメニューのためにキャンプの計画を…… いや違った、防災力を高めるぞ!

 

【データ】

「サボる」防災で、生きる「書影」

■寒川一・ せつこ 著『「サボる」防災で、生きる』

(2022年8月刊/主婦と生活社)

https://www.shufu.co.jp/bookmook/detail/978-4-391-15820-5/

 

寒川 一 (さんがわ・はじめ)

災害時に役立つアウトドアの知識をキャンプ体験、防災訓練、書籍などを通して伝えるアウトドアライフアドバイザー。北欧のアウトドアプロダクトを多く扱う輸入代理店、UPIアドバイザー。東日本大震災や自身の避難経験を経て、災害時に役立つキャンプ道具の使い方・スキルを教える活動を積極的に行っている。『キャンプ×防災のプロが教える新時代の防災術』(学研プラス)監修など。

 

寒川せつこ (さんがわ・せつこ)

北欧ソト料理家、UPIアドバイザー。スカンジナビアの自然と、豊かに暮らす人々との繋がりから、スカンジナビアのアウトドア文化を主に料理ワークショップを通して発信。『たのしく防災! はじめてのキャンプ/NHK 趣味どき!』(NHK出版)、『メスティンレシピ』(山と渓谷社)、Webメディア『ソトレシピ』などにレシピを提供。

https://upioutdoor.com/story/friend/hajime-sangawa/

 

■評者 根岸真理

1961年、神戸市須磨区生まれ。1歳前に親に連れられて六甲登山デビュー。アルパイン歴30年の自称アウトドアライター。『六甲山を歩こう!』(神戸新聞総合出版)ほか六甲山関連本を4冊上梓。『神戸新聞』のおでかけ情報欄「青空主義」の第三月曜日版で六甲山情報を執筆中。

http://653daigaku.com/information/14176/

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