たどり着けるかは運次第!? 究極の秘湯・野湯探検記 【vol.03】 奥奥八九郎温泉/秋田県

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炭酸ガスに集まるアブの襲来に要注意

この奥奥八九郎温泉の難点はアブの襲来である。アブは、動物が呼吸した時に出す二酸化炭素に集まる習性がある。そのため、温泉から噴き出る大量の炭酸ガスにアブが集まってくるのだ。

アブに刺されたら人によっては数週間もの間、腫れとかゆみに悩まされる。冬場はアブはいないが、GWの頃から徐々に増えてゆき、7月も過ぎると信じられないくらい大群になって飛び回っているという。林道が通行可能になる雪解けの初春や秋以降ならばアブは出ない。また、夏でも雨が降っていてもアブがでないので、霧雨程度なら入湯を十分楽しめるだろう。

地元の人は「早朝がアブは少ない」という。ここは車中泊でそのままキャンプする人もよくいるが、炭酸ガスにより夕方以降はアブだけでなく大量のヤブ蚊も集まってくる。防虫対策をしっかりするか、季節を選んでアブのいない時期に訪れたい。また、熊の出没が多いようで、熊注意の看板が多数ある。    

沈殿物の堆積により高さが変わる

私はこの奥奥八九郎温泉に何度も行っているのだが、行く度に少しずつ景色が変わっている。十数年前に初めて行った時には、湯船の周りに丸太を立てたイスが20cmほどの高さで置いてあった。その数年後、その丸太の高さが10cmほどになっていた。最近のレポートを見ると高さが数cmから埋もれてしまったものまであるようだ。つまり地面に温泉沈殿物がどんどん堆積し高くなっているのである。

炭酸カルシウムの温泉沈殿物は現在、約1mほど堆積しているという。

泉質は「ヒドロ炭酸泉」という珍しい温泉だといわれている。炭酸成分が強い透明なお湯が空気に触れて酸化され、褐色の沈殿物ができ茶色く濁る。そのため、湯船の底には濃い茶色の砂のような沈殿物が堆積しており、座るとお尻が茶色く染まってしまう。タオルなどには落ちにくい色がつくかもしれないので注意が必要だ。    

温泉を管理する地元の人に感謝

ここは掘削直後はバルブを止めて止水が行われていたが、1984年頃からのバルブ開放により温泉水の流出が再開され、地元の人々が非公式にメンテナンスをしているようだ。スノコや桶などの備品などを置いたり、清掃をしたり、ツルハシとスコップを使った手仕事で周辺の整備をしたりしているという。

国有林のなかにあるので、法律上は指定地以外で勝手にキャンプすることは禁止である。ましてやゴミを放置するなど言語道断だが、誰もが簡単にアクセスできるためか、マナーの悪化も散見されるという。現在では形式的ではあるが、立入禁止のロープが張られている。

そんなことが度重なると、ここへの立ち入りが完全に規制されるかもしれない。極めて貴重なジャグジーが湧いていて、温泉が生き物であると実感できるワイルドな野湯である。いつまでも野鳥のさえずりを聞きながら大量自噴の湯に浸かり、至福の時を過ごせるよう、皆で大切に守っていきたい。  

※一部に私有地を含む場合がございますので、野湯を訪れる際は事前に許可を取ることを推奨します。

 

【データ】

■奥奥八九郎温泉

■住所:秋田県小坂町
※JR「津軽湯の沢駅」からクルマで約35分

 【プロフィール】

■瀬戸圭祐(せと・けいすけ)

■プロフィール:アウトドアアドバイザー、野湯マニア。NPO法人・自転車活用推進研究会理事。自動車メーカー勤務の傍ら、自転車・アウトドア関連の連載、講座などを数多く行っている。著書に『命知らずの湯』(三才ブックス)、『快適自転車ライフ宣言』(三栄)、『ジテッウ完全マニュアル』(ベースボールマガジン社)、『爽快自転車バイブル』(毎日新聞社)、『自転車ツーリングビギナーズ』(八重洲出版)、『雪上ハイキングスノーシューの楽しみ方』(JTBパブリッシング)、『家族で楽しむ! アウトドア大研究』(水曜社)など。2023年4月現在、足を運んだ野湯はトータルで約100湯。

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